人口動態は社会のデザインにおいて重要な要素である.少子高齢化の進行する日本であるが,自治体によって今後成長の見込まれる自治体と,衰退が加速して消滅していく自治体がデータから明白になりつつある.
今回は関東地方について調査した.当事者なら肌感覚でこの予想が分かるだろう.
データソース
Wikipedia の自治体の 2010 年および 2015 年の人口を調査した.平成の大合併と言われた市町村合併が収束したのは 2006 年であり,この年以前の人口はあてにならない.また対象とした自治体は市のみであり,町村は考慮していない.
対象の自治体
茨城県,神奈川県,埼玉県,千葉県の市である.東京都の市および区は後で述べる.
5年間の人口増減の算出
まずは絶対数の増減から.2010 年と 2015 年の人口の差を人口増減とした.
平均人口増減率の算出
2010 年と 2015 年の人口の差を 2010 年の人口で割った比率を 5 年で割り,平均人口増減率とした.
EXCELの散布図にプロット
X 軸に人口増減を,Y 軸に 2010 年人口を取って EXCEL の散布図にプロットする.結果を示そう.
これだけではピンとこないので,今度は X 軸に人口増減率を,Y 軸に 2010 年人口を取る.
何か傾向が見えてきた.上へ行くほどデータの分布が絞られていくように見える.こういう時は対数表記にすると分かりやすくなる.Y 軸の目盛を対数表記に変換してみよう.
人口増減率は年間 0 – 0.5 % の範囲に収斂していく
人口の多い都市,ここでは横浜市だが,を頂点とした左右対称の二等辺三角形ができていることが分かるだろうか?
ここから言えることは,人口規模が大きくなるほど,人口増減率は年間 0 – 0.5 % の範囲に収斂していく,ということだ.これは人口の増加が環境の強い制約を受けていることを示している.
この散布図を眺めていると,右上のセグメントには高い山脈があるように思えてくる.逆に左下のセグメントは深い谷底のように思える.常に登り続けようと努力しないと,容易に谷底に引きずり込まれる山道のようなものである.楽に思えても,気がつけば谷に向かって坂道を下っていたということにもなりかねない.
だから,人口増減率がこの二等辺三角形の右辺に近い市は,何らかの強力な誘導が行われている可能性がある.それが政治的なものか経済的なものかはともかくとして,「今しばらくは」良いかも知れない.しかし子どもたちが成人してさらに孫世代が生まれてくる頃にどのような様相を呈しているのかは,分からない.
東京の一人勝ち
東京都についてもデータを集積してみたが,予想通りほとんどの自治体で人口は増加傾向にある.しかも,他の県では左右対称となっていた三角形から右側に大きくはみ出している.これは強い.一人勝ちと言って差し支えない.
しかしここでも人口規模が大きくなるほど人口増減率は 0.5 % 近くに収斂していく傾向が見られる.世界レベルで同様の傾向が見られるのかどうか,興味深い.
日本の都市の未来は?
人口規模が増加するほど人口増減率が収斂していく様を二等辺三角形で表現する.関東地方はまだ左右対称を保っている.
東京都は特殊であり,この三角形に収まりきらないが,それでも人口規模が大きいほど爆発的な人口増加は望めないという原則は保たれている.
さらに時間の要素を加えて,二等辺三角形が今後どのように変形していくかを矢印の方向で示す.
このまま時計の針を数十年進めるとどうなるか.それは日本全国の都市の人口増減率を見れば分かる.
日本全国の都市の人口増減率
Wikipedia にあった.データは 2019 年 6 月 1 日または 2018 年 10 月 1 日のものである.
注意が必要だが,ここでの増減率は (推計人口 – 法定人口)/法定人口で計算しているため,これまでの増減率とは数値が合わない.しかし,大まかな傾向としてはだいたい合っているのではないかと思う.
富めるものはますます富み栄え,貧しいものは持っているものまで奪われる
これが現在の日本の姿である.関東地方では左右対称であった二等辺三角形がすでに崩れており,二等辺三角形の右側の頂点が上にシフトし,左側の頂点が下にシフトしている.左下のセグメントにいる都市はどうなるか?グラフから消えていくのである.
中でも人口増減率が -5 % を下回っている都市はもう駄目だ.該当都市の市民には申し訳ないが,見捨てる他ない.ちなみに夕張市は -9.6 % である.文字通り都市が崩壊していくのを我々は現在進行形で見ているはずだ.
人口が10万人未満で人口減少中の自治体は確実に消滅する
三角形の左側に位置する市はどうだろうか.人口が 10 万人未満で減少中の自治体は左下方向への強いベクトルに引きずられており,近い将来には消滅が確実だと分かるのではないだろうか?
政治的な対策は色々あるだろうが,一市民としては,大都市への移住を本格的に検討すべき時期ではないだろうか?住み慣れた街を離れたくないと言うなら,行政サービスの低下は避けられないことを覚悟しておこう.
左に行くほど消滅の可能性が高い
消滅の恐れのある市町村は全国に 896 あると言われる.その中には現在の人口が 10 万人以上の 17 の都市も含まれる.そこをフィルターの基準にして平均人口増減率の閾値を探すと – 3.5 % となった.
もちろん 5 万人以上 10 万人未満の都市や 1 万人以上 5 万人未満の都市は,このフィルターの閾値では数が合わない.増田寛也も「消滅可能性の指標は確固たるものはない」と言っている.
もしかすると消滅閾値は縦一直線ではなく,斜めに走っているのかも知れない.だとすると,人口が 10 万人を超えている都市でも消滅閾値に近い都市は意外と多いのかも知れない.
今の人口が 10 万人を超えているからと言って,決して安心はできない.都市の崩壊は内部から既に都市を蝕んでいるのである.それは指数関数的に進行するため,初期の頃には人の目にはその兆候が見えない.だからある時点を超えると崩壊が急速に進むように見える.だが,内部では既にその兆候は現れている.
人口予測はまず外れない
残念ながら人口の予測はほぼ間違いなく当たる.担当者がどれほど強がって見せても,それはポジショントークだと思っておこう.現在人口が減っている自治体は決して口には出さないが,市民としては「町じまい」を覚悟しておいたほうが良い.
最初は雇用の喪失から始まるだろう.仕事が病院と役所だけになっている自治体は,実は限界集落では珍しくない.電気や水道などのインフラは最後まで残るだろうが,ごみ収集など,外部に委託している事業が危ない.
また,実は非常勤の医師ばかりという医療機関も珍しくない.そういった地域では夜間や休日に受けられる医療に差がついてくる.遠方の救急指定病院まで搬送している間に容態が悪化する病気など,いくらでもある.
賢明な読者におかれては,自分の住んでいる地域がどのセグメントに該当するか,上の図を見てよく考えていただければ幸いである.
俺なら子供にこう言うだろう.「都会へ行け.田舎には戻ってくるな」
まとめ
日本の都市の将来を人口という切り口で 1 枚のグラフに示した.そこから,これから当面は繁栄していく都市と,逆に衰退が加速して消滅していく運命の都市が明確に別れることが分かった.
自分の一生だけを考えるなら消滅していく都市で生きるのも悪くない.だが,自分の子供が衰退していく都市で生活していくことを思うと,やりきれない.子供に自分より高いレベルで生活してほしいと思うのは贅沢だろうか?俺はそうは思わない.
“過去5年間の人口増減率から自治体の将来を予測する” への2件の返信