Google Formで条件分岐するアンケートを作成するで触れたが,国際標準化身体活動質問票は成人の一週間の運動量を半定量的に評価するアンケートである.略して IPAQ ともいうが,これのデータ処理に関するガイドラインを見つけたので紹介しておく.
IPAQ は東京医科大学公衆衛生学分野のサイトに掲載されている.Short 版,Long 版はさらに直近 7 日間と普段の 7 日間に分類され,結局 4 つの質問票があるが,ここでは直近 7 日間の Long 版を扱うことにする.
対象は 15 歳から 65 歳までの成人とされており,小児や高齢者での使用は想定されていない.しかしながら,これに替わる評価法がないのも実情であり,やむを得ず使用している施設もあると考えられる.
データベースにおける具体的なコーディングはIPAQガイドラインをクエリで表現するにはで説明しているので参考にされたい.
IPAQの評価する場面
Short 版と Long 版で若干の違いはある.Long 版では仕事,移動,家庭,余暇の四つの場面に分けて成人の身体活動量を評価し,それぞれの場面で歩行,中等度活動,高強度活動を質問する.
取得したデータの取り扱い
Short 版,Long 版を問わず,カテゴリ変数および連続変数として身体活動データを扱うことができる.分布は非正規分布となるため,連続変数は平均値ではなく,中央値と四分位数で表現する必要がある.
連続変数
IPAQ で評価したデータは連続変数として集計できる.活動量はメッツ・分の単位で表現し,活動強度(メッツ)に活動時間(分)を積算して求める.IPAQ ではメッツ・分/週の単位で表現する.
カテゴリ変数
身体活動レベルを三段階に定義する.
- 低身体活動 (Low)
- 中身体活動 (Moderate)
- 高身体活動 (High)
身体活動レベルを評価するには総身体活動量と実施日数の両者から求めるためのアルゴリズムがある.
Long版の分析
連続変数での評価
仕事,移動,家庭,余暇の四つのドメインごとに,歩行,中等度身体活動,強い身体活動について質問する.移動ドメインで中等度に該当するのは,自転車による移動 (6.0 METs) が充てられている.概要を下表に示す.
ドメイン/活動強度 | 歩行 | 中等度身体活動 | 強い身体活動 |
---|---|---|---|
仕事 | 3.3 | 4.0 | 8.0 |
移動 | 3.3 | 6.0 | |
庭仕事 | 4.0 | 5.5 | |
家の中 | 3.0 | ||
余暇 | 3.3 | 4.0 | 8.0 |
総身体活動量を「歩行」,「中等度の身体活動」,「強い身体活動」ごとに小計するには上表の色ごとに集計する.「強い庭仕事」が中等度の身体活動に含まれることに注意されたい.
総計は上記全てを総和した値になる.
カテゴリ変数での評価
正直なところ,こちらの評価法のほうが難しい.読んでもすぐに頭に入ってこない.順番としては,まず高身体活動を抽出し,次に中身体活動を抽出し,残りを低身体活動とする.
抽出のための基準が定められているが,正直,頭が混乱する.クエリで関数を書いて,都度呼び出すようにしないとやってられない.多次元キューブを思い描いているが,ややこしくて具体的に描けない.
高身体活動 (High)
以下のいずれかを満たす場合,高身体活動 (High) と分類する.
- 強い身体活動を 1 週間あたり 3 日以上行い,その総身体活動量の合計が 1500 METs⋅Min/Week 以上であるもの
- 歩行・中等度の身体活動,強い身体活動の 1 週間あたりの合計日数が 7 日間以上で,なおかつ総身体活動量が合計 3000 METs⋅Min/Week を満たしているもの
中身体活動 (Moderate)
以下の基準のいずれかを満たすものを中身体活動 (Moderate) と分類する.
- 1 日 20 分以上の強い身体活動を週 3 日以上
- 1 日 30 分以上の中等度の身体活動または歩行を週 5 日以上
- 歩行,中等度の身体活動,強い身体活動のいずれかを週 5 日以上実施し,総身体活動量が 600 METs⋅Min/Week 以上
低身体活動 (Low)
高身体活動,中身体活動のいずれも満たさないものを低身体活動 (Low) と分類する.
データクリーニング
時間の取り扱い
問題になるのは時間の取り扱いである.各質問の回答は「時間」単位ではなく「分」単位に統一する.他,「分からない」「回答拒否」などでデータが欠損している場合はその回答は分析から除外する.
もっとも,紙ベースではなく Google Form などのフォームを適切に設計してあれば,このような事態はある程度防げる.回答者がネットでの回答に抵抗がないなど最低限の IT リテラシーは求められるが.
除外すべき外れ値の最大値
ここでも時間が問題となる.歩行,中等度の身体活動,強い身体活動の合計時間が 16 時間(960 分)を超えるデータは外れ値とみなして解析から除外する.睡眠時間が 8 時間であることから推定される.
「日数」が「8 日以上」や「分からない」,「回答拒否」などの回答も除外する.
フォームの設計を適切に行えば,これもある程度防げる.
活動時間の最小値
10 分以上継続する活動時間のみを集計の対象とする.10 分未満の回答は 0 と置換する.
データの切り捨て
IPAQ Short 版と IPAQ Long 版で扱いが若干異なる.
- IPAQ Short 版では 3 時間または 180 分を超える歩行時間,中等度の身体活動時間,強い身体活動時間はデータを切り捨て,180 分とする
- IPAQ Long 版では,歩行,中等度活動,高強度活動のそれぞれの活動合計時間を算出し,それが 1 日 3 時間を超える場合は,データを切り捨て,180 分とする
しかし,である.集計を始めると分かるのだが,Long 版での切り捨てルールには書かれていない瑕疵がある.
「中等度」で切り捨てられた時間はどの活動から切り捨てるのか,具体的な指示がない.係数のメッツが等しければ計算に支障はないが,残念ながら係数が異なるため,どの活動時間を切り捨てるかで計算結果が変わってくる!これはまずい.
中等度および強い身体活動を実施した総日数の算出
ここらへんから怪しくなってくる.IPAQ Short 版では日数の値は 0 – 21 日の範囲となり,Long 版ではそれ以上になる.
中身体活動を計算するには,1 週間に 5 日以上身体活動を行っている者を特定する必要がある.新たに「週 5 日以上」というカテゴリを設ける必要がある.その条件として,
- 歩行および中等度の身体活動を少なくとも 1 日あたり 30 分以上実施し,週 5 日以上
- 歩行,中等度の身体活動,強い身体活動のいずれかで 600 METs⋅Min/Week を満たしていること
身体活動の強度ごとの「日数」の値は,他の計算で使用するためデータとして保存する必要がある.
高身体活動カテゴリを計算するための日数を算出するには
- 歩行,中等度の身体活動,強い身体活動のいずれかで少なくとも週 7 日の身体活動を行っている者を特定する
新しく「週 7 日以上」のカテゴリを設ける.
ITリテラシー以前に,日本語が読めない日本人がいる
新井紀子によると,
- 日本人の 3 人に 1 人は日本語を読めない
- 日本人の3分の1以上が小学 3 – 4 年生の数的思考力しかない
- パソコンを使った基本的な仕事ができる日本人は1割以下しかいない
- 65 歳以下の日本の労働者人口のうち,3 人に 1 人がそもそもパソコンを使えない
かなり絶望的な状況である.教育が劣化したのではなく,昔からそうだったのである.そりゃ,日本社会の生産性が低いわけだ.日本語がまともに読めず,小学校 3 年生の計算しかできず,パソコンも使えないレベルの人間に合わせて社会を設計したらどうなるか,火を見るより明らかである.
親世代が PC を扱えるかどうか,確認してみるといい.おそらく Google Form での入力どうこう以前に,マウスやキーボードそのものを扱うことができないのではあるまいか.こういった「できない人間」をどうやって取り込んでいくかが課題である.スマホは IT への敷居をかなり下げた.今後はウェアラブル端末が人間から IT を遮蔽していくのかも知れない.
スマートウォッチの普及が不可欠
人の活動を後から振り返ってアンケートに記入するのは不正確で,結果に歪みが生じやすい.医療やリハビリの現場では加速度計を装着して被検者の運動量を定量化する試みがなされてきたが,以下の理由で課題は山積している.
- 機器が高価であり多人数での計測が予算上困難
- 水中での装着が困難
- 一週間も装着し続けることが困難
愛は測定できるか?でも述べたが,スマートウォッチはこの突破口になる可能性がある.機種ごとの差異は計測アプリケーションで吸収するのが良いだろう.もっとも,一番性能の低い機種の機能に合わせることになるのだが.
2019 年 2 月時点で市販されているスマートウォッチの中で最も高機能な機種の一つが Garmin である.
最近この機種を入手した.設定はこれからだが,心拍数から様々な生体データを推測する機能が充実しているようだ.
しかしながら,施設で導入するには民生品でもう一桁値段を安くする必要がある.良い機種はないものか.
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