前回の投稿(心血管系または呼吸器系の入院歴のある高齢コホートメンバーの死亡リスクに及ぼす断熱改修および暖房の影響)では循環器系疾患および呼吸器系疾患による死亡率が断熱介入により減少することをみた.今回は断熱改修の費用対効果の経済的側面に焦点を当てる.
原著はここから読める.健康上の利益とエネルギー上の利益は,コストを2倍近く上回る,というのが本著の趣旨である.日本においてもこのようなエビデンスに基づく政策が実行されてほしい.
要約
目的
既存住宅の断熱が屋内温度を上昇させるか,居住者の健康と幸福を改善するか否かを定義すること.
デザイン
地域ベース,クラスター化,単盲検無作為化試験.
設定
ニュージーランドにおける7つの低収入地域.
参加者
1350世帯に含まれる4407名の参加者.
介入
標準的な断熱改修パッケージの設置.
主要アウトカム指標
屋内温度および相対湿度,エネルギー消費量,自己申告の健康,喘鳴,学校や仕事を休んだ日数,一般開業医への受診および病院への入院.
結果
断熱化は冬季間の寝室温度をわずかに上昇させ(0.5°C),相対湿度を減少させ(-2.3%)たが,断熱住宅のエネルギー消費量は非断熱住宅の81%にとどまった.断熱住宅で寝室温度が10°Cを下回った時間は非断熱住宅よりも1.7時間少なかった.これらの変化は断熱住宅における可もなく不可もないとの自己評価による健康状態(調整オッズ比0.5, 95%信頼区間0.38から0.68),自己申告による過去3ヶ月間の喘鳴(0.57, 0.47-0.70),自己申告による小児の学校の欠席日数(0.49, 0.31-0.80),および自己申告による成人の仕事を休んだ日数(0.62, 0.46-0.83)のオッズ減少と関連していた.一般開業医への受診は断熱住宅でより少なく報告された(0.73, 0.62-0.87).呼吸器疾患での入院も減少した(0.53, 0.22-1.29)が,この減少は統計的有意ではなかった(p=0.16).
結論
既存住宅の断熱化は屋内環境を顕著により暖かく乾燥させ,その結果自己評価による健康状態,自己申告の喘鳴,欠席日数および休職日数および一般開業医への受診を改善し,呼吸器疾患による入院の減少傾向を示した.
導入
住宅の品質は人口の健康に影響する.住宅の改善は潜在的に疾病を予防する可能性があり,特に低品質の住宅に曝露している人口の一部においてそうである[1,2].社会的介入,特に住宅介入のいくつかのレビューでは,この分野の研究が不足しており,そこから因果関係の干渉を導出できる研究が緊急に必要とされていると指摘している[3-6].先進国の人々は90%以上の時間を屋内で過ごし,その大部分は自分の住宅であるが,屋内環境の健康への特異的な影響についてはほとんど知られていない[7,8].この住宅,断熱および健康の研究は,低収入地域における既存住宅の断熱化のクラスター化無作為化試験である.研究は地域レベルにおける屋内環境を改善するための実践的介入としてデザインされた.
British Wanless報告書は,政府が効果的な政策を策定するのに役立つような実践的な介入策について,より堅牢な根拠を提供するために「現在の政策と実践から根拠を生み出すあらゆる機会」を利用すべきだと述べている[9].住宅の改善が罹患率を有意に減少させるという根拠が限られているため,公共政策の策定に使う根拠を提供するための解析の主要な単位として,我々は住宅に焦点を当てた.住宅に断熱改修を施すことは,個人レベルで介入するのではなく―例えば,人々に厚着をさせるような―費用対効果が高く健康状態を改善する実践的方法である[10].
建付けが悪く古い住宅は暖房するのが難しく高価になる.住宅内の温かさが不十分だと居住者の健康への影響が,特に冬季間にある[11,12].屋内のエネルギー効率は健康に関連している,というのはエネルギーに費やされたお金は食品などの他の必要なものに費すことができないからである[13,14].寒い家は高齢者や乳児,病弱な人々,つまり体温調節機能が低くより屋内で過ごす時間が長い傾向のある人にとって生理的ストレスを与える[15].寒い住宅はまたより湿気が多い傾向にあり,カビの成長に繋がり,呼吸器系の症状を引き起こす[16,17].不十分な暖房:湿気があり寒くカビの多い住宅:と健康状態の悪さとの関係はいくつかの国際的な報告で指摘されてきた[17-21].驚くべきことに,冬季の超過死亡率は寒い気候よりも温度において顕著であり,これらの地域の住宅がその気候から居住者を十分に保護していないことを示唆している[10,15].
方法
本研究は以前発表したように検出力への配慮と無作為化を含むが,短い要約を下記に示す[22].Figure 1は本研究を通じた世帯の流れのアウトラインを示す[23].
設定
ニュージーランドは温帯気候を有し,冬季間の日中の気温は南島における10°Cから北島における16°Cにわたる[24].住宅ストックの3分の2は3LDKと4LDKの独立した木造住宅で木造またはコンクリートの杭の上に建っている(Statistics New Zealand, www.stats.govt.nz/ default.htm).住宅の寿命は通常90年で,約3分の1は断熱されていない.ほとんどの人はリビングとたまに寝室を暖房するだけである[25].
我々の研究は,3つの都市部と4つの農村部の計7つの地域で,地元の協力のもとに実施された.すべての地域で倫理的承認を取得した.
募集
我々は研究参加者を地方組織を経由して選択し,インフォームドコンセントも取得した.各コミュニティは200世帯を選択した[26].選ばれた世帯は断熱されていない住居であり;世帯メンバーの最低でも一人が過去に呼吸器症状を報告しているか―繰り返す喘鳴など―あるいは喘息,肺炎,胸部感染症の既往があることであった;かつメンバーが次の二冬の間はその住居にとどまる予定であることだった.
サンプルサイズの計算は,SF36(short form 36)アンケートでの一般化した健康上の質問において「可」あるいは「不良」から改善することが期待される人々の数に基づいていた[22,27].
参加者
研究は1350の住宅で構成されていた.就業パターンは2001年のニュージーランドセンサスからいくらか乖離していた:研究の住宅で賃貸は24%であったが国全体では32.2%であった;11%が公的地主から借りていたが国全体では6%であった.3分の1の住宅が社会経済地域の下位10分の1にあり,3分の2は下位10分の3にあり,そのため参加者は脆弱で不健康な傾向があった.一般人口の13%と比較して,20%が自分の健康状態が悪い,または非常に悪いと評価していた.
最初の地域的に階層化された無作為化が独立した生物統計学者によって実行された.Table 1 に系統的バイアスの根拠がないことを示す.
介入
世帯は無作為に対照群に割り付けられ,研究の最初の冬(2001年7月から8月)のベースライン計測を取得した後に断熱化が施された.断熱は天井断熱,窓とドア周りのドラフト止め,床根太の下へのサイサレート紙の取り付け,および家の下の地面にポリエチレンの防湿層の設置からなる.その断熱化は,世帯主は無料であり,政府の仕様に従っており(抵抗値2.4),訓練された地域のチームにより設置された(対照群の世帯は平等のため研究の最後にすべてのデータが収集された後断熱化された).
アウトカム指標
研究では面接官がアンケートを実施した;参加者の自己申告の経験;同様に独立して医療サービスの利用,住宅の温度,および住宅の他の環境特性(table 2).ほとんどの質問は以前の住宅サーベイで使われたものである[28].
2001年および2002年の春,全世帯のメンバー11歳以上は健康,医療機関への接触,喫煙および不健康による労働や正常活動の喪失時間を自己管理式のアンケートで完了した.これには3つのSF-36フルスケール(身体的役割,感情的な役割および社会的機能)のサブセットが含まれており,移行期の健康に関する質問,2つのスケール―一般的健康および活動性からなる一つの質問である.11歳未満の幼児と子供を対象とした,同様ではあるが年令に応じたアンケートは,介護者や両親が完了した.
我々は指定された一般開業医に接触してプライマリケアを調査した.入院の数,期間,および主要ICD-10コードを,一意の国民患者識別番号を用いたデータマッチングの過程を通じて収集した.
参加者は夕食を取る前にその日の天候を温かい,通常,寒いで報告した.世帯主はまた,世帯人口統計,住宅の特性および空間暖房―固体燃料の使用の推定について,住居内で面接官のアンケートに答えた.面接官は住宅の断熱状態についてのコメントに誘導しないよう命じられていた.地域の電力会社およびガス会社は研究期間中の各世帯のエネルギー消費量についてのデータを提供した.
二冬にわたって140の無作為に選ばれた世帯で寝室の温度と相対湿度を15分おきに記録した.7つの地域から各2つの無作為に選ばれた世帯で外気の温度と湿度が連続して記録された.
統計的手法
我々は治療意図を持ってデータをいくつかの手法で解析した.無作為化は識別可能な系統的バイアスをもたらさなかったため,我々は介入群と対照群のフォローアップ点数を比較し,ベースライン点数からフォローアップ点数を差し引いて派生した点数の差を比較した.特に明記しない限り共分散分析(ANCOVA),好ましいアプローチが表示される.ANCOVAは各参加者のベースラインに対するフォローアップの点数を調整するが,ベースラインの差に影響されないという利点を持つ[29].解析も世帯内の個人および地域内の世帯の層別化をコントロールした[30].我々は日常的に性別,人種および年齢群を調整したモデルに加えた;この決定は事前に行われた.我々はバイナリデータまたは通常のデータにはSASソフトウェア(バージョン9.1,SAS Institute)およびGlimmixの手順を用い,計数データにはSTATA(バージョン8.2,StataCorp)およびゼロ過剰負の二項モデルを用いた.
オッズ比が表示された場合,値1未満は断熱が正の効果を表現し,値が1より大きいのは断熱の負の効果を示す.一般的に,我々は変数を年齢,性別,地域,ベースライン値で調整した.未調整のオッズ比は層別化を考慮していることを表現している.最も重要なアウトカム指標の参考サンプルをここに示した;他は別で表示する.
結果
我々は1350世帯を募集した;ベースライン世帯情報はこれらの世帯から1309軒および4407名から得られた.フォローアップ時点で,1128世帯と3312名が残っていた―定着率は世帯で68%,個人では75%である.先住民族のマオリ族の割合(49%)および移民の太平洋諸島民の割合(22%)は国の人口よりもサンプルで高かった(それぞれ15%および6%).
世帯因子
本研究の住宅は典型的な低社会経済状態にある住宅であった.自己申告では18%が体調が悪いまたは非常に悪いであり,89%が過密状態であり,75%がカビを有していた.建築検査官の報告では更に健康状態が悪く,140の無作為化サブサンプルの53%が悪いまたは非常に悪く,81%に何らかのカビが見られるとしている(table 3).
気候
両年の冬は広く比較可能であった.2001年および2002年の平均日中温度は10.5°Cおよび11.3°Cであった.
屋内環境
常にあるいは大部分の時間寒いと感じるオッズは非断熱住宅と比較して断熱住宅では有意に減少していた(調整オッズ比は0.06, 95%信頼区間は0.04から0.09, P<0.0001; table 4).介入後に暖房が無効と報告したオッズは断熱住宅で有意に低かった(0.38, 0.25から0.57; P<0.0001; table 4).
断熱住宅における寝室の平均温度は13.6°Cから14.2°Cに上昇し,非断熱住宅では13.2°Cから13.4°Cであった.断熱住宅において平均相対湿度は68.6%から66.9%に減少し,対して非断熱住宅では68.3%から66.9%であった(table 5).Figure 2に24時間にわたって平滑化された経験的温度周波数を示す(曲線下面積).断熱住宅では寝室温度が10°Cを下回る時間が1時間減少し,非断熱住宅では4.5分間長くなった.
報告された湿気とカビ
ベースラインにおいて,3分の2の世帯が湿気を報告し,4分の3がカビを報告したが,断熱後に湿気 (0.18, 0.13から0.24; P<0.0001) やカビ(0.24, 0.18から0.32; P<0.0001)を報告した断熱住宅のオッズは有意に減少した(table 4).
エネルギー使用量
電力会社とガス会社のデータ,および自己申告の木材および炭の使用量から標準発熱量を用いた計算は,幾何平均で3899kWh相当が断熱住宅で使われ,対してコントロールアームでは4941kWhだった.ベースライン使用量の調整後,これは断熱世帯が対照世帯の消費量の81%を消費していることに相当する(81%効果,72%から91%; P=0.0006; table 4).両年とも電気と主にガスのみを使用した世帯(n = 136)のサブサンプルを採取すると,推定燃料節約額は年間25ポンド(37ユーロ,49ドル,税抜き)であった.
SF-36
自己申告の健康は介入群において有意に改善した(table 6).断熱住宅の参加者は健康が悪いまたは普通と報告することが有意に減少した(0.50, 0.38から0.68; P<0.0001).社会的機能スケールにおいて,断熱住宅の参加者は対照群(3.8から8.6)に比較して6.2%ポイントが改善した.この改善は役割の感情スケール(P<0.0001)における10.9%ポイントであり,身体的役割スケール(P<0.0001)における11.8%ポイントであった(table 7).介入群の人々はメンタルヘルススケールの減少した下半分にいるオッズが0.56倍であった(0.41から0.77;P=0.0003).
断熱住宅の人々は,最近の喘鳴(0.57, 0.47から0.70; P<0.0001)および自己申告の冬風邪と感冒(0.54, 0.43から0.66; P<0.0001)などの呼吸器症状のオッズが対照群のおよそ半分であった.成人においては朝の痰の発生率が有意に減少し(0.64, 0.52から0.78; P<0.0001),13歳以下の小児においては喘鳴症状が睡眠を妨害したり(0.57, 0.40から0.70; P<0.0001)会話を妨害したり(0.51, 0.31から0.86; P=0.0012)するのが半減する傾向にあった(table 6).
学校や仕事を休んだ日数
断熱住宅に住む子供は対照群と比較して学校を休む日数のオッズが半分であったと報告され(0.49, 0.31から0.80; P=0.004),成人では仕事を休む人が少なかったと報告された(0.62, 0.46から0.83; P=0.0017).仕事を休んだ日数におけるデータを解析した際,自宅での状況を説明する在宅の無職の成人の存在をモデルに事前に付加した(病気の子供の世話をする誰かなど).
一般開業医への受診
参加者の82%について一般開業医から記録を受けた.自己申告による一般開業医への受診は断熱住宅で有意に低かった(0.73, 0.62から0.87; P=0.0002)が,その差は一般開業医の記録では有意差がなかった(0.95, 0.81から1.13; P=0.58)(table 8).
病院への入院
我々はまた参加者の80%の国民健康指数番号(ゆえに病院記録)にもアクセスできた.介入群と対照群では,すべての原因で入院した人の数に全体的な差はほとんど見られなかった(4.4%対4.7%).肺病や閉塞性気道病変などの呼吸器疾患に関しては,しかし断熱住宅の人々の入院は少ない傾向にあった(0.8%対1.3%; 0.53, 0.22から1.29; P=0.16).呼吸器病変以外の疾患に関しては,住宅の品質に関連するものは少なく,研究群間の差は小さかった(0.90, 0.59から1.37; P=0.61).呼吸器疾患に関して2群間の入院日数の差は有意ではなかった(table 9).
考察
我々の研究ではコミュニティアプローチを用いて健康の重要な環境決定要因を調査した.医療施設の利用を除いて,断熱によりすべてのアウトカム指標が改善し,結果は統計的有意であった.自己申告データにおいて効果量はより大きかったが,住宅検査官が居住者の判断よりもより悪い状態であると判断したこととは独立であった.
本研究の限界と強み
我々の研究は実験的介入アプローチが採用されたが,必然的に単盲検のみで行われた.独立した建築検査官と地域の面接者はどの世帯が介入群に属しているかを知らされなかった.断熱材の設置を世帯主や地主に知られずにいることは現実的ではなかったため,フォローアップ期間中何名かの世帯主が面接者に介入について言及した可能性はある.しかしながら,この可能性のあるバイアスは,電力会社や一般開業医,病院などの独立した情報源から収集された外部データの収集により最小化された.
1977年までの建築基準法が断熱材を全く要求していないように,住宅規制基準は歴史的には厳しくなく,ニュージーランドにおいて住宅の3分の1が全く断熱されていない理由が説明される[31].最低でも一人のメンバーが現在呼吸器症状を有する断熱されていない世帯に標的を絞ることにより,一般人口よりもそれらの人々の家がより古く,寒く,湿気が多いこと,暖かさの増加と湿度と湿気の減少とに大きな効果があることを期待できることを識別した.また,標的にした地域と調査した地域組織のため,その人口は不当に高い割合のマオリ族と太平洋諸島民を含み,ヨーロッパ系よりも高い罹患率と早期死亡を有していた[20,32].
経済学者は規格外の住宅よりも,低い世帯収入が根底にある健康格差の基本的問題であると議論した[33].そのような交絡は,我々の研究のような無作為化比較試験を原因と結果の定義において重要なものにしている.収入と住宅は明らかに相互作用しているが,低収入の住宅をアップグレードすることは収入を再配分するよりも容易である.
断熱の利益
古い住宅に断熱を施工することは統計的有意な屋内温度の上昇と相対湿度の低下をもたらす.10°C以下の温度に曝露される頻度は30%減少し,相対湿度は平均で3.8%低下した.居住者が低温と高湿度に曝露することの減少が,彼らが有意に高い水準の快適さを報告した理由である.代わりに,断熱は居住者と外界の間の熱伝導を減少させるか,居住者が燃料代をコントロールできるという感覚があった可能性がある.
断熱住宅の人々はまた湿り気とカビが有意に減少したと報告しているが,我々の研究では調査した範囲では主要な環境因子を同定できなかった.湿った建物の中で生活したり労働したりすることと咳嗽や喘鳴,アレルギー,喘息などの健康への影響との関連はよく確立している.しかしながら,湿気の多い建物を健康関連用語で定義したり,湿気の中のどの成分が健康に有害な効果を有するのかを定義したりすることは不可能である[8].
世帯主は介入後の住宅の暖房費用が有意に減少し,その節約により実効可処分所得が増加した可能性がある.世帯主が効率向上を利用してエネルギー消費を抑えたという知見は,平均気温の変化が比較的小さかったことや,この分野における他の実証的研究と一致している[34-36].また健康状態の改善は,平均気温と湿度の変化によるものではなく,比較的小さなものであり,非常に低い気温と高い湿度に晒された時の大きな変化によるものであることを示唆している.
我々の調査では,1軒あたりの断熱材への比較的ささやかな投資(税抜きで約700ポンド,あるいは入院1回分の費用)が,人口の自己申告による健康状態の大幅な改善に繋がり,子供が学校を休んだり,成人が病気で仕事を休んだりするリスクが低下した.介入群の参加者は一般的な健康状態,呼吸器症状,および快適さと幸福の感覚において有意な改善を報告した.公式報告によれば,一般開業医への受診は減少していない;しかし,プライマリケアには固有の患者IDが存在しないため,ニュージーランドでは一般的なことだが,患者が複数の一般開業医を受診した記憶は,かかりつけ医の記録よりも正確である可能性がある.二次医療では.一意の患者IDが存在するため,呼吸器疾患による入院患者数と入院日数が減少する傾向が見られた.
英国のコホート研究からのエビデンスは,劣悪な住宅環境の影響は生涯にわたって蓄積することを明らかにした[37].ゆえに,住宅への介入は大きな健康乗数効果をもたらす可能性がある.この介入試験の保守的な費用便益分析によると,30年間の実質割引率5%の現在価値で計算した場合,目に見える健康上の利益とエネルギー上の利益は,コストを2倍近く上回り,省エネの要素は断熱材の費用の約半分をカバーすることが示された[38].このような堅牢な健康,幸福,経済的アウトカムの指標は,英国のNational Institute for Health and Clinical Evidenceが,効果的な公衆衛生介入に関するガイドラインを作成する際に使用するような情報を提供している.
結論
我々の研究は,地域社会とのパートナーシップの実践と無作為化比較試験の厳密さとのバランスをとることが可能であることを示している.古い住宅の熱特性を改善することで古い住宅は暖かくなり,健康にも良いことが証明された.この種の介入は,低所得者層と劣悪な品質の住宅に焦点が当てられるが,健康格差を減少させる可能性を秘めている[39].断熱材の設置は健康と幸福を向上させるための費用対効果の高い介入であり,地域社会,政策立案者,政治家に高度に受け入れられている.
参考文献
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