スマートウェルネス住宅調査の結果から一つの論文を紹介する.前回の投稿では血圧値と屋内温度変化との関係を見たが,今回はベースライン調査から住宅の屋内温度と血圧変動との相関関係を見たものである.表題の論文はここから読める.
要約
家庭血圧の変動は心血管イベントの重要な因子である.個人属性と生活習慣の家庭血圧減少に対する効果を調査した研究はいくつも存在するが,生活環境の効果は不明のままである.我々は安定した住宅の温度環境が家庭血圧変動の安定化に寄与すると仮定した.我々は3785名の参加者(2162世帯)に対して家庭血圧と屋内温度の疫学調査を行い,それらの住宅に対する断熱改修を計画した.家庭血圧は冬季間の2週間毎朝夕2回ずつ測定した.屋内温度は家庭血圧の観察ごとに測定した.朝夕の差(ME)を日内変動の指標として計算し,標準偏差(SD),変動係数(CV),平均実変動(ARV)および平均値から独立した変動(VIM)を日間変動の指標として計算した.血圧変動と温度不安定性との間の相関は重回帰モデルを用いて解析した.屋内/屋外の温度の朝夕差の平均(一晩の温度低下)は3.2/1.5℃であり,屋内/屋外温度の標準偏差の平均は1.6/2.5℃であった.線形回帰分析で屋内温度の朝夕差が収縮期血圧の朝夕差に密接に相関しているとわかった(0.85 mmHg/℃, p < 0.001).屋内温度の標準偏差も収縮期血圧の標準偏差と相関していた(0.61 mmHg/℃, p < 0.001).CV, ARVおよびVIMは血圧における標準偏差SDと近似した傾向を示した.対照的に,屋外温度の不安定性は日内家庭血圧の不安定性にも日間血圧の不安定性にも相関していなかった.ゆえに,血圧変動の減少のためには屋内温度を安定に維持することが必要である.
導入
家庭血圧測定(HBPM)は、現在、高血圧の診断と管理に用いられる標準的な方法の一つである。米国[1],ヨーロッパ[2]および日本[3]の高血圧ガイドラインは,白衣高血圧,観察者のバイアスおよび測定エラーを最小化するために院外での血圧測定を推奨している.家庭血圧測定はまた外来血圧測定よりも許容され広く受け入れられている[4].先行研究では家庭血圧と心血管疾患との強い相関が明らかになっている[5,6].
家庭血圧のレベルとは別に,家庭血圧変動も心血管イベントリスクを評価する際に重要な因子である.血圧は異なる時系列(心拍ごと,日内,日間,季節性,年次の変動)では異なる変動を示し,心血管イベントはすべての血圧変動が同期して大きく血圧上昇する際に発生する可能性がある[7].家庭血圧測定は広範囲の血圧変動を評価するのに有用であり,朝夕差で示される日内変動,標準偏差(SD),変動係数(CV),平均実変動(ARV)および平均値から独立した変動(VIM)で示される日間変動を含む.いくつかの研究では家庭血圧値とは関係なく,上記の朝夕差[8]や日内変動指標[9,10]を減らすことで,さらなる利点があることが示されている.家庭血圧変動を減少させることはそれゆえ心血管イベントを予防するために有用である.
いくつかの研究では[11,12,13]個人属性および生活習慣因子の家庭血圧変動への影響を調査している.対照的に,しかし,生活環境の影響は不明のままである.屋内温度と血圧値との相関をみた先行研究があり[14,15],我々は住宅での安定した温度環境が家庭血圧変動を減少させるのに寄与するとの仮説を立てた.屋内温度変動の主要な因子の一つは住宅の断熱性能である.断熱性能の低い住宅では外部の天候状態に容易に影響され,その結果屋内温度が不安定になる.対照的に,断熱性能の高い住宅では屋内温度を適切な範囲に維持することが可能である.それゆえ,住宅の品質が家庭血圧変動において必須の役割を果たしている可能性が高い.日本においては,既存の住宅の39%が断熱されていないと推定されており[16],このことは屋内温度の不安定性と家庭血圧変動との相関を調べる上で重要な設定となる.
我々は「スマートウェルネス住宅調査」と言う名の全国の前向き介入試験を行った.これは日本において屋内温度と家庭血圧の関連を定量的に評価することを目的としている.我々の先行論文では,家庭血圧値に焦点を当てた[14].この論文ではベースライン調査(介入前)の結果に基づいて家庭血圧変動と屋内温度の不安定性との関連を調査する.
方法
著者らはこの研究結果を裏付けるデータが,この論文およびそのオンライン版データ補足資料の中に記載されていることを宣言する.本調査はヘルシンキ宣言の原則に従って実施された.研究計画書およびインフォームドコンセントの手続きは,服部医院倫理審査委員会の承認を得た(承認番号S1410-J03).この審査委員会は医学,生命倫理,法律の専門家で構成され,厚生労働省の認定を受けている(認定番号CRB3180027).すべての参加者は書面で参加とデータの公開についてのインフォームドコンセントを受けた.本研究は http://www.umin.ac.jp/ctr/に登録されている(試験番号UMIN000030601).
研究デザイン
スマートウェルネス住宅調査の研究デザインは他で報告している[14].本調査は参加者が自宅を改修するかどうかの選択に従い群分けした非無作為化比較試験である.建設会社により日本全国47都道府県から参加者を募集した.適応基準は(1)自宅を断熱改修する意思があること,(2)20歳以上であること,および(3)リフォーム前の住宅が日本の「長期優良住宅の普及促進に関する法律」のS基準を満たさないものであった[17].スマートウェルネス住宅調査は2014年の冬に開始され,計6回(2014-2019)の冬のデータが取得され,2021年1月まで続いた.本論文では,冬季間のベースライン調査(断熱改修前)のデータの横断解析を実行した.
家庭血圧と他の測定項目
家庭血圧と他の測定項目の方法は他で報告した[14].簡潔に述べると,家庭血圧は現行のガイドライン[18]に従って起床後(排尿後,内服前および朝食前)に2回および夜就寝前に2回測定した.朝夕2回ずつ家庭血圧を測定して平均し,家庭血圧変動の計算に用いた.家庭血圧は2週間にわたりリビングで座位で自動血圧計(HEM7251G; Omron Healthcare Co., Ltd., Kyoto)を用いて測定した.家庭血圧データは周囲の温度データと共に自動的に蓄積された.室内温度は床から1.0メートル高で測定されリビングで10分間隔で測定した(TR-72wf; T&D Corp., Nagano).屋外温度はそれぞれの参加者の自宅から最も近い気象観測所から60分間隔で取得した.アンケート調査も実施し,年齢,性別,体重,世帯年収などの個人属性や,食生活,喫煙や飲酒などの生活習慣,高血圧に関連する疾患をカバーするものである.さらに,参加者が自宅で過ごした時間,睡眠の質および睡眠時間を記録する日記調査も実施した.
日内家庭血圧変動を評価するため,朝夕差(朝の血圧-夕の血圧,Fig. 1)を計算した.日間家庭血圧変動を評価するため,SD, CV(100×SD/各参加者の血圧の平均),ARV(連続した血圧測定間の差の絶対値の平均),VIM(平均血圧値と相関のない指標)を計算した.朝-夕の平均血圧(ME平均)を日間変動指数を計算するための各日の血圧値として用いた.現行のガイドライン[18]に従い,データが5日未満の参加者を除外した.また14日経過後に測定された血圧観測値も除外した.これらの計算の詳細はFig. 2に示している.これらの変動の指標は先行する家庭血圧変動の研究で用いたものである[9,10].また我々は屋内温度と屋外温度の朝夕差(夕方の温度-朝の温度)を決定し,日内の温度不安定性を評価した.屋内環境温度は朝夕の家庭血圧測定と同時に蓄積され,屋外温度は各家庭血圧測定に最も近い時刻に記録され,計算に用いた.日間温度の不安定性を評価する屋内温度と屋外温度の標準偏差は各日の朝夕平均に基づいて計算した.
統計解析
重回帰分析を用いて家庭血圧変動と屋内温度不安定性との間の相関を調べた.日内変動を検査するためにモデル1を構築し,従属変数として血圧の朝夕差を,独立変数として屋内温度と屋外温度の朝夕差を含めた.日間変動を検査するため,4つのモデルを構築した.モデル2-1にはSDを,モデル2-2にはCVを,モデル2-3にはARVを,モデル2-4には2週間の家庭血圧測定のVIMを従属変数として含め,屋内温度と屋外温度のSDを独立変数として含めた.モデル1とモデル2は共に次の変数で調整した.年齢,性別,体格指数(BMI),高世帯収入(日本円で600万以上か未満),塩分チェックシートスコア,野菜消費(定期的に野菜を摂取しているか否か)[19],現在喫煙の有無,現在飲酒の有無,定期的な運動(週2回以上かつ1回30分以上)の有無,降圧薬内服の有無.
塩分チェックシート(0-35点)は塩分の多い食品の接種頻度をチェックするだけで完結する塩分摂取に関する単純なアンケートで,24時間塩分排泄量と有意に相関する.我々は本調査における地域平均の塩分チェックシート点数と国民健康栄養調査での塩分摂取量を比較し,その妥当性を事前に確認した(Table 1).睡眠の質が低いと朝の血圧が高くなることが先行研究で分かっていたため[20],睡眠の質と睡眠時間を調整に加えた.2つの睡眠指標の平均を両モデルに入力した.日間家庭血圧変動は睡眠の質と睡眠時間の日間変動に影響されると考えられたため,モデル2には2つの指標の標準偏差を入力した.これらの変数は高血圧管理ガイドライン2014(JSH2014)[21]に基づく高血圧に関連する因子として選択した.さらに,日間変動指標に影響する可能性があったため,家庭血圧測定日数をモデル2に投入して調整した.すべてP値は両側で,0.05未満を統計的有意とした.すべての解析はSPSS Ver. 26を用いて行った(SPSS Inc., Chicago, Illinois, USA).
結果
冬季におけるベースライン調査の研究概要
Figure 1に冬季調査からの有効サンプルの選択の流れを示す.2,162世帯3,785名の参加者からの反応が有効と判断された.Table 1に選択された参加者の属性を示す.平均年齢は58歳(範囲は20-99歳),47%が男性であり,BMI平均は22.8 kg/m2で世界保健機関(WHO)による正常範囲(18.5-24.9)を示していた.約4分の1の参加者が高血圧のため病院を受診し,降圧薬を服用していた.
家庭血圧測定の平均日数は13.6(範囲は5-14日間)であった.平均収縮期圧/拡張期圧の朝夕の平均値は126/78であった.収縮期圧/拡張期圧の朝夕差の平均値は日内変動の指標だが,6.6/6.5 mmHgであった.収縮期圧/拡張期圧のSD,CV,ARVおよびVIMの平均は日間変動の指標だが,それぞれ6.9/4.6 mmHg, 5.4/6.0%, 7.5/5.1 mmHg, 6.8/4.6単位であった.
屋内温度/屋外温度の朝夕の平均値は16.3(範囲4.5-25.6℃)/4.3℃(範囲-5.1-16.2℃)であり,WHOにより推奨される住宅温度の最低値18℃を下回っていた[22].屋内温度/屋外温度の朝夕差の平均値は日内変動の指標であるが,3.2/1.5℃であり,一晩での屋内の温度低下が屋外での温度低下よりも大きいことを示していた.屋内温度/屋外温度の標準偏差の平均値は日間変動の指標であるが,1.6/2.5℃であった.Figure 2に一日を通してのリビングと屋外の温度の変動および標準偏差を示す.住宅にいる時間の平均値は17.3時間であり,参加者が多くの時間(72.0%)を自宅内で過ごしていることを示していた.リビングの温度は午後9時にピーク(18.0℃)を示し,屋外温度が低下して最小値の12.8℃に低下した.リビングの温度の標準偏差は午前5時から7時にかけて上昇していた.
家庭血圧の日内および日間変動および屋内温度の不安定性
Figure 3A,3Bは屋内温度/屋外温度(一晩で低下する屋内温度/屋外温度)の朝夕差に基づいて群別された参加者における収縮期圧の朝夕差の平均値を示す.屋内温度の朝夕差と共に収縮期圧の朝夕差には明確な傾向が見られる.収縮期圧の朝夕差は3.9 mmHg 対9.3 mmHg(屋内温度の朝夕差<1℃未満対4℃以上).Figure 3C, 3Dは屋内温度/屋外温度の標準偏差に従って群別された参加者の収縮期圧の標準偏差の平均値を示す.屋外温度と収縮期圧の標準偏差との間には何の相関も見られないが,屋内温度と収縮期圧の標準偏差との間には正相関が認められる.収縮期圧の標準偏差は6.3 mmHg対9.5 mmHg(屋内温度の標準偏差は1℃未満対4℃以上)であった.
Table 2に日内家庭血圧変動の重回帰分析の結果を示す.交絡因子の調整後,屋内温度の朝夕差は血圧の朝夕差(収縮期圧0.85 mmHg/℃,拡張期圧0.53 mmHg/℃)に対して統計的有意であった.対照的に,単変量モデルにおいて観察された屋外温度の朝夕差との相関は重回帰モデルにおいては有意ではなかった.それゆえ,単回帰モデルにおいて屋外温度の朝夕差は血圧の朝夕差と偽の相関を示した.Table 3に日間家庭血圧変動の指標の重回帰分析の結果を示す.重回帰モデルにおいてはすべての日間変動の指標が屋内温度の標準偏差と正相関を示したが,屋外温度の標準偏差とは相関を示さなかった.ゆえに,屋内温度の不安定性は家庭血圧の日内および日間変動を共に増加させる.我々は国土交通省が屋外温度と暖房期間から定義する気候区により分類されたデータも解析した(Fig 3に示す).我々は気候区4-7において解析を行い,100箇所以上の住人の有効なデータを取得した.各気候区で家庭血圧の朝夕差と屋内温度の朝夕差との間に有意な相関が観察された(Table 2参照).各気候区では家庭血圧の標準偏差と屋内温度の標準偏差との間には有意な相関が認められた(Table 3).
考察
日本において2,162世帯3,785名の参加者に実施した本研究の主要な所見は次のとおりである.(1)屋内温度/屋外温度の朝夕差は日内変動の指標であり3.2℃/1.5℃であった.(2)屋内温度/屋外温度の標準偏差の平均値は日間変動の指標であり1.6℃/2.5℃であった.(3)一晩での屋内の温度低下(屋内温度の朝夕差)が1℃未満の住宅と比較して,屋内の温度低下が4℃以上の住宅では収縮期圧の朝夕差が大きかった(3.9 mmHg対9.3mmHg).(4)屋内温度低下が1℃未満の標準偏差の住宅と比較して,屋内温度低下が4℃以上の標準偏差の住宅では収縮期圧の標準偏差が大きかった(6.3mmHg対9.5mmHg).(5)交絡因子の調整後,日内および日間血圧変動は屋内温度の不安定性と有意に相関していたが,屋外温度の不安定性とは相関しておらず,これは屋内温度の不安定性が家庭血圧の日内および日間変動を増加させていることを示唆している.上述した所見の可能性のある一つの原因は環境温度による血管収縮や血管拡張などの血管の熱生理学的反応であり,その結果血圧が上昇したり低下したりする.
日内および日間家庭血圧変動の臨床的意義
血圧変動の臨床的意義はまだ確立していない.研究者たちは血圧変動の長所[23]と短所[24]を議論してきたが,コンセンサスが得られていないことを示している.しかし,血圧変動の意義を支持する研究が最近の研究で多く用いられている.日内家庭血圧変動の観点では,血圧における朝夕差は左心室量係数と相関すると先行研究は示している[8].日間家庭血圧変動の観点では,Ohasamaの研究 [9,25],J-HOP study[10],Finn-Home study[26]およびいくつかの研究の複合[27]からのエビデンスでは,SD,CV,ARV,VIMなどで定義される家庭血圧の日間変動が高いことは全死亡,心血管死亡および脳卒中死亡の増加と有意に相関しており,血圧値とは無関係であることが示されている.最近の研究[28]では家庭血圧のCVが認知機能と相関していることを明確にしている.さらに,系統的レビュー[13]は家庭血圧変動が心筋組織損傷の進行および心血管イベントに対して独立した影響があることを示している.増加しつつあるエビデンスが日内および日間の家庭血圧変動の意義を示している.ゆえに,我々は家庭血圧変動測定による血圧変動が心血管イベントのリスクを評価するのに有益であると信じる.
日内家庭血圧変動の決定要因
この朝夕差の決定要因を調査した研究は少ない.Ishikawaら[11]は高齢,β遮断薬の使用および定期的アルコール消費が朝夕差を誇張していると示した.加えて,Itoらは[12]飲酒と入浴が朝夕差の増加と相関していると明らかにした.これらの研究では朝夕差を減少させる方法も検討しており,主に生活習慣因子に焦点を当てている.本研究は一晩での屋内温度の低下(屋内温度の朝夕差)が血圧における朝夕差と正相関していることを示した.血圧における朝夕差は基本的に概日リズムが発生させるが,屋内温度の不安定な群による血圧の朝夕差と比較することで,概日リズムの影響から温度による影響を分離できる可能性がある.この結果は生活習慣と生活環境の改善の組み合わせが日内家庭血圧変動の減少のキーであることを示唆している.
日間家庭血圧変動の決定要因
いくつかの因子が日間変動に影響すると判明しており,個人属性(高齢,女性,低いBMI),生活習慣因子(過剰な飲酒,喫煙,座位中心の生活習慣,β遮断薬の使用)および健康状態(心血管疾患および糖尿病の既往)も含まれる[13].しかし,屋内温度のような生活環境に関連する示唆は全く存在しない.本研究では,多変量解析で屋内温度の日間不安定性が家庭血圧の日間変動に正相関すると示した.ゆえに,屋内温度の不安定性を減少させることが血圧変動を減少させる有効な手段である可能性がある.
日本および他国における屋内温度の不安定性
本研究では屋内温度が夜間に急速に低下し,リビングの温度の標準偏差が朝に上昇することを示した.これらの結果は大多数の日本の住宅における低レベルの断熱性能,就寝時に暖房を切り朝離床時に暖房をつけるという習慣に起因している.日本においては,既存の住宅約5000万戸のうち39%が全く断熱されておらず,たった5%が1999年基準(最高の断熱基準)に達する相対的にましな断熱性能を有しているに過ぎない[16].加えて,リビングのみの間欠暖房が日本では普通である.日本での先行研究[29]では暖房設備は居住者が連続暖房か部分間欠暖房のいずれかを選択できるように設計する必要があると説明されていたが,住宅の断熱レベルが低く結果としてエネルギー効率が悪いため,現在では後者が一般的な選択となっている.ゆえに,高断熱レベルと連続暖房の組み合わせが屋内温度の日内および日間不安定性の両者の減少に重要である.
他国において屋内温度の不安定性を調査した研究は少ない.ニュージーランドでは,リビング温度の朝夕差の平均値は4.3℃(夕の平均値17.8℃-朝の平均値13.5℃)で[30],本研究における3.2℃よりも大きい.加えて,中国農村部においては屋内温度の日変動幅が5.5℃であった[31].ヨーロッパとアメリカにおける住宅は連続暖房が一般的であるため屋内温度の不安定性はより少ないとされるが,屋内温度の不安定性は日本だけではなくアジアやオセアニア諸国においても潜在的な問題になる可能性がある.
心血管疾患を予防するための高断熱住宅および連続暖房の推奨
血圧値および血圧変動を減少させることは心血管イベントを予防するために重要と考えられる.先行研究では暖房と断熱改修の血圧値に対する効果を示した.ある無作為化比較試験[32]は家庭暖房の指導が朝の収縮期圧を4.4mmHg減少させたと示した.さらに,ある介入試験[33]は住宅の断熱改修が朝の収縮期圧を3.1mmHg減少させ有意であったと明らかにした.これらの結果に基づくと,暖房使用と高断熱住宅の両者が血圧値の低下に重要である.しかし,血圧変動の観点からすると,暖房器具の使用は有益にも有害にもなりうる.連続暖房は屋内温度を一定に維持するのに寄与するが,間欠暖房の使用は屋内温度の日内不安定性を招き,暖房器具を就寝中に切ることで屋内温度の大きな朝夕差の部分的な原因となる.加えて,暖房の使用が屋内温度の日間不安定性を増加させることを見出した.対照的に,高断熱住宅は屋外温度にそれほど影響されないため,屋内温度の安定性に繋がり,血圧変動の減少に有効であった.ゆえに,我々は暖房の使用よりも高断熱住宅で生活することに優先順位を高く推奨する.我々はこれらの結果が血圧変動と関連する心血管疾患の予防に利益となることを期待する.
研究の限界
本研究には我々の所見を解釈する際に考慮すべきいくつかの限界がある.最初に,本研究は住宅の断熱改修を希望する参加者によって実施されたため,研究のサンプルが健康な世帯に偏るバイアスの可能性がある.さらに,家庭血圧測定の推奨が日本のガイドラインと西側諸国のそれとで異なる.例えば,夕方の家庭血圧測定のタイミングは日本のガイドライン[18]では「就寝前」だがアメリカやヨーロッパのガイドライン[1,34]では「夕食前」となっている.それゆえ,これらの所見の適用には注意すべきである.二番目に,我々は,家庭血圧変動の潜在的な交絡因子である参加者の日常着用する衣服についての情報を得られなかった.衣服着用で調整した屋内温度の不安定性の血圧変動に対する影響を調査するさらなる研究が必要である.三番目に,我々は,血圧変動に影響する可能性のある温度の曝露履歴の情報を得られなかった.ベッド内の温度は血圧変動,特に日内変動に有意な影響がある可能性がある.それゆえ,これらの課題を解決するには,参加者がウェアラブルな形で温度センサーを携帯する研究デザインが必要である.最後に,横断的な研究の性質として季節的,年次に及ぶ血圧の変動を評価できなかった.血圧の季節変動と温度との関係を評価するエビデンス[35,36]があり,レビュー論文が発行された[37].しかし,最も最近の研究は屋外温度に焦点を当てているため,屋内温度と血圧の季節変動との関係はまだ限定されている.家庭血圧の大きな季節変動が心血管イベント[38]や標的臓器障害[39]と関連するという知見を考えると,今後の研究で血圧の季節変動と屋内温度との関連を調査する必要がある.年変動に関しては,寒冷負債(寒い住宅に長く住むこと)が血圧の年変動を増加させるという仮説を立てている.寒い住宅群と暖かい住宅群との長期コホート研究で,年間の血圧変動を調べる予定である(Fig. 4).
展望
我々の知る限り,これが血圧の日内および日間変動と屋内温度の不安定性の間の関連を調査した最初の疫学的研究である.血圧の朝夕差と日間変動は屋内温度を維持することで減少する可能性がある.本研究は,単に生活習慣を改善して血圧変動を減少させることよりも,生活環境を改善することの効果に新しい知見を提供するものである.加えて,住宅の屋内温度が高いほど血圧値が低くなる.ゆえに,屋内温度は血圧値と血圧変動の両者の効果を介して心血管疾患を予防する主要な因子である可能性がある.
血圧値を下げる手段として屋内温度を上げる方法と,血圧変動を減少する手段として屋内温度の不安定性を減少させる方法の2つのアプローチがある.高断熱住宅で生活し,暖房器具を使用することである.どちらも屋内温度の上昇や屋内温度の不安定性を減少させることに貢献するが,暖房器具の使用には副作用が伴う.暖房器具の間欠的使用は屋内温度の不安定性を増加させる可能性があるからである.暖房器具の使用には初期費用や実用性が高いという長所があるが,心血管疾患の予防には暖房器具に頼らず高断熱住宅で生活することが望ましい.
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“室内温度の不安定性が冬季の家庭血圧の日内変動および日間変動に与える影響:日本全国のスマートウェルネス住宅調査から” への1件の返信